☑引き継ぎをせずに退職してやろうと思っている
☑引き継ぎ強要はすべてパワハラと思っている
☑引き継ぎをしなかったら会社から損害賠償請求されるのか知りたい
退職時には業務引き継ぎをしなければならないのは多くの人がわかっています。
しかし会社からヒドい対応をされたり、上司から高圧的な指示をされたり腹が立って、引き継ぎがどうでもよくなるかもしれません。
ただ退職時の引き継ぎをテキトーにすると会社から損害賠償請求される可能性があります。どうしたら損害賠償請求されずに業務引き継ぎができるのかをお伝えいたします。
一方で、引き継ぎ強要により退職引き止めをして退職者の希望通りに退職させないのはもちろんパワハラにあたりますので会社側の問題になります。(こちらの対応方法も後述します)
損害賠償請求される3つのポイント
「退職時に引き継ぎ義務はない」と認識されている方が多いです。
確かに法的な義務はありません。
しかし問題は「引き継ぎする、しないか」ではなく、損失・過失・立証がポイントです。
(1)重大な損失があるか
「退職時に業務引き継ぎしなければならない」という法律はありません。
しかし業務引き継ぎをしないことによって、会社に重大な損失を発生させると損害賠償請求されるかもしれません。
たとえば、退職者しか知らない顧客情報があり、それを誰にも引き継がず、大きな利益損失(売上減少、顧客の信頼を下げるなど)をさせてしまう場合が該当します。
(2)故意または過失によるもの
会社に対して「腹が立つからやってやった」など故意による損害が損害賠償請求される可能性を高めます。
一方で、故意でないミスによっての損失で損害賠償請求されることはまずありません。
なぜなら会社は従業員の管理監督の役割がありますので、従業員のミスに対して責任があります。
(3)会社側が損害内容を客観的に立証できる
上記のような「従業員の故意による損害」が発生した時に、客観的に立証できるかどうかもポイントです。
“客観的に”とは“数値”で表せるかどうかです。
「顧客情報を把握してなくて、顧客を怒らせてしまったぞ」では、客観的証明にはならないです。
「顧客から受注していた商品が、引き継ぎがなかったために納期が20日間遅れて、120万円の機会損失が出たぞ」(120万円の算出根拠も必要)といった内容を会社が証明できるかどうかです。
☑労働者に故意または過失による加害行為がある
☑労働者により重大な損害が出ている
☑上記の重大損失について、会社は客観的証明ができる
引用:ベリーベスト法律事務所「引き継ぎもせず突然の退職! 会社から従業員に損害賠償請求は可能?」
損害賠償請求される具体例
損害賠償請求される具体例を見ていきましょう。
退職時の引き継ぎを怠って、実際に損害賠償請求された実例もあります。
(1)突然の退職
退職する意思を示した書置きを残して疾走したケースです。
トラックドライバーの話ですが、簡略化すると以下の通りです。
事前に退職意思を誰にも伝えず、任されていた配送ルートを走らなかった。
結果、受注金額から経費(高速道路費、燃料費、人件費等)を控除した金額を損害賠償請求されました。
ちなみにこの判例では、ドライバーは退職前にパワハラされた事実が発覚しました。
それでも裁判では会社の損害賠償請求を認めたのです。
理由は「事前に退職の意思を伝えることができないほどの緊急性があったとはいえない」とのことです。
↓↓↓裁判例の全文はこちら↓↓↓
引用:労務ネットニュース(令和4年4月発行)「突然退職した従業員に対する損害賠償請求の可否」
(2)入社後、すぐに退職した
特定の業務を任せる予定で採用した従業員が、あまりに早期に退職することで会社に損害を与えたケースです。
こちらも裁判例があります。
新規事業立ち上げのために雇用された労働者が、わずか4日間で退職した事案であり、会社から労働者に対する200万円の請求に対し、70万円の限度で損害賠償請求が認められました。
引用:ベリーベスト法律事務所「引き継ぎもせず突然の退職! 会社から従業員に損害賠償請求は可能?」
(3)自分の退職時に他の従業員にも転職などを勧める
退職するとき、他の従業員に転職の勧誘や引き抜きをすると損害賠償請求される可能性があります。
従業員には会社に対して「誠実義務」や「競業避止義務」があります。
つまり、会社に在籍している限り、上司の指示や就業規則等の社内ルールを守りましょう。
「競合企業への転職」や「競合する企業の設立」は止めてください、というものです。
(4)研修や留学を経験後、短期間で辞めた場合
会社が支払った研修や留学の費用は、労働者に対する貸付金(立替金)といった考え方です。
ケースバイケースですが、会社はかかった費用を従業員に対し請求できる可能性があります。
(5)念書を書いてしまった
もっとも損害賠償請求される可能性が高いです。
たとえば、「誓約書に一年は就業すること、違反した場合50万の違約金を支払うことって書いてある誓約書にサイン」をした、などです。(これも実際にあった話です)
ただし、この(5)については違法を合法にしようとしているブラック企業のやり口です。
ですので、絶対にこの手の念書は書かないようにしてください。
↓↓↓退職時(や入社時)に誓約書を書かされそうになったら…↓↓↓
自分を守るための退職準備
上記の通り、非常識なことをしない限り、損害賠償請求されることはありません。
一方で、こちらが正しい行い(業務引き継ぎなど)をしていても過度な退職引き止めをしてくる会社や上司は存在します。
それでも入念に事前準備をしておけば、損害賠償も退職引き止め(パワハラ)も恐れることはありません。
(1)退職の全体像を設計する
会社や上司に退職意思表示をする前に退職の全体像を設計しましょう。
①明確な意思表示(退職理由、上司へ相談ではなく報告)
②期日を明確にする(退職日、最終出勤日、引き継ぎ)
③証拠を残す(退職後も確認できるようにしておく)
④過度な”引き止め”は違法である認識(パワハラ)
⑤転職先を決める
この5つが退職で押さえるべきポイントです。
退職者のあなたから能動的に動きましょう。上司らに主導権を取られないように。
以下、直属の上司に一発目に送る参考メールです。
件名:【ご報告】退職について
□□課長
お疲れ様です。表題の件、報告いたします。
△△(社名)には新入社員の頃から育成してもらい、多くの迷惑もかけてきました。特に□□課長には〇年間もお世話になり、ビジネスマンとして大変勉強になりました。ありがとうございました。
この度は私の勝手で大変恐縮ですが、実家の家業を継ぐため、〇年〇月〇日付で退職いたします。有給と週公休を考慮すると最終出勤日は〇年〇月〇日になります。
業務引き継ぎをスムーズに進めるため、上記の通り考えていますがご意見いただけますでしょうか。
よろしくお願いいたします。
(2)退職時の引き継ぎはどこまでやる?
引き継ぎはあなたが主導で、上司に相談しながら行うべきです。
仮に上司から指示がなければ、自ら引き継ぎ書類を作成し、上司に提出しましょう。
「私は引き継ぎの意思があります」を伝えることができます。
当然ながら業界、業態、業種、役職でちがってきますが、概ね以下の6つが業務引き継ぎのポイントです。
☑業務概要(こんな仕事をしています)
☑業務フロー(こんな流れでやっています)
☑業務スケジュール(年・月・週・日ではこんな動きです)
☑注意すべきこと(イレギュラー時の対応)
☑資料の保管場所一覧(キャビネットのここにありますなど)
☑得意先など社内外関係者の連絡先一覧
(3)証拠集め
現時点で何も問題が起きていなくても証拠集めを実施ください。
退職意思表示をしてから、会社はあなたへの接し方が変わります。(良くなることはないですね)
退職前後は必ずと言ってもいいほど何かしらトラブルが発生します。
具体的には「退職引き止め(パワハラ)」「退職金未払い」「有給使わせない」などです。
これらの正しい知識を持っておきましょう。詳細は以下の記事を参考に。
「就業規則」がひとつのポイントです。
↓↓↓退職金や残業代の未払いに備える↓↓↓
↓↓↓退職引き止めを避けるには↓↓↓
《音声データを証拠にする場合》
☑相手に内緒で録音することで、訴えられる可能性などはあるか?
⇒ 自分の権利を防御するための録音は、原則として違法にはなりません。(盗聴は法律で禁止されていますが、秘密録音は民事では有効です)
☑証拠にするためにはどんな内容がいる?
・ポイントは「会社から残業指示があったか」です。
・自分と相手、両方の発言を録音されていますか?
・会社(上司)からの指示ですか?
・あなたの自発的な残業ではないことを証明できる内容ですか?
(4)退職時に問題が発生した時の相談先
上記の(1)~(3)をしっかり対応していれば、問題が発生しても対応できます。
ただし一人では対応しきれない問題もあります。
そんな時は公的機関を頼りましょう。
①労働基準監督署
労働者の相談に乗ってくれ、事業所に立ち入り、労働基準法に違反していないかを調査してくれます。
また法違反があれば、使用者(社長ら)を逮捕・捜索・送検するなどの強い権限を持っています。
②労働局
労働基準監督署の上位機関で、原則、各都道府県に一つあります。
無料、匿名、予約なしでも対応してくれます。
③労働審判
地方裁判所で手続きできます。
労働審判は従業員と雇用者の間のトラブルを解決するための、専門的な手続きで、地方裁判所で行われます。
「裁判を起こすほどではないんだけど…」といった内容に向いています。
☑早期に解決(たいてい3ヶ月以内)できる
☑弁護士に依頼しなくても個人でできる
☑手数料も訴訟の半額以下
☑話合いの手続きがメイン(裁判ほど重くない)
その他、よくある質問(一問一答)
退職時の引き継ぎについて、よくある質問をまとめました。
(1)引き継ぎが不十分でも有給は消化できますか?
できます。退職時の有給はすべて使えます。
ただし前述の通り、最終退職日から逆算して計画し、引き継ぎ書類を作成しておいてください。
↓↓↓退職時に有給を完全消化するには↓↓↓
(2)退職時に引き継ぎする後任いませんが退職できますか?
できます。後任を準備できないのは会社の責任になります。
(3)退職の引き継ぎの指示がありません。引き継ぎする義務はありますか?
引き継ぎは必要です。
前述の通り、指示がない時こそ能動的に引き継ぎをすべきです。
なぜなら引き継ぎせず退職日を迎えた時に上司から「え?引き継ぎせずに退職できると思ったの?」と切り出されかねないです。
引き継ぎそのものに法的義務はありませんが、会社への故意に重大な損害を与えたと考えられなくもないです。
(4)アルバイトですが、契約期間内に一方的に退職しても大丈夫ですか?
会社から損害賠償請求される可能性はきわめて高いです。
アルバイトは有期雇用です。(正社員は無期雇用)
有期雇用の場合、原則として“やむを得ない事由”がなければ雇用契約を解除することはできません。
“やむを得ない事由”とは、労働条件が契約時と大幅に相違があるなどです。
物事は両面から見る~引き継ぎとパワハラは別物~
両面とは会社側と労働者側です。
SNSなどで「会社が悪い!すぐ退職をすればいい!労働者は労働法に守られている!」といった内容が声高に叫ばれていますが、非常に危ういと思っています。
確かにヒドい会社もたくさんあります。
しかし仮に「会社にひどい扱いをされてきたんだから退職する時はテキトーに」はまかり通りません。
会社が“ひどい扱い”、たとえばパワハラや賃金未払いと「退職引き継ぎをしない」とは関係ない話です。
パワハラなどには別問題として法的対処をすればいいです。
自分が会社の社長だったら?と一瞬だけ、相手の立場からも考えてみるのも良いかと思います。
↓↓↓会社に損害与える退職が損する理由↓↓↓
・損害賠償請求されるかどうかは①損害を与えた②故意による③立証できるか
・退職者が会社に損害賠償請求される裁判例は実際にある
・退職時にあやしい念書は絶対に書かない、サインしない
・自分を守るために、退職は主体的に行う
・面倒でも証拠集めをしておくことでスムーズな退職ができる