☑上司の発言はパワハラなんじゃないか?と日頃から思っている
☑社員や部下にパワハラで訴えられないか不安な事業主、管理職の方
☑パワハラなのか、ちがうのか白黒つけたい
パワハラを白黒つけるのは会社でも、被害者でも、あなたでもなく、決めるのは“世間一般の感覚”です。
多くの人が主観的に「私が不快に感じたからパワハラ」「私は彼(彼女)のためを思って指導をしている」と思い込んでいます。
ドライな言い方にはなりますが、パワハラの白黒決着がつくのは社会が決めること、具体的には裁判所の判断になります。
では何を持ってパワハラと判断するか?ですが、言動だけでも判断できません。
本記事ではこのパワハラのグレーゾーンのもやもやを、白黒はっきりつけられるような知見を得られるキッカケになると思います。
・パワハラのグレーゾーンは主観から生まれる
・厚生労働省の考え ≒ 裁判所の判断 ≒ “世間一般の感覚”
・厚生労働省のパワハラの定義と6類型を知る
・パワハラは様々な状況によるもので、言動のみでは判断できない
・自分は“世間一般の感覚”を知らないと知る
これってパワハラ?厚生労働省のパワハラの定義
厚生労働省のパワハラを3つの定義と6つの類型に分けられます。
パワハラのグレーゾーンを理解するために、まず厚生労働省の考え方を知ることが重要です。
なぜなら厚生労働省の考え≒裁判所の判断≒“世間一般の感覚”になるからです。
この3つは完全にイコールではありませんが、かなり近い考えであると仮定した上で話を進めます。
では厚生労働省がどう定義(分類分け)しているのか確認しましょう。
職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるものであり、
①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
またパワハラは6つの類型に分けて考えます。
(1)身体的な攻撃(暴行、傷害)
蹴ったり、殴ったり、体に危害を加えるパワハラ。
ケガまでしなくても頭を小突いたり、物を投げつけてみたりするのも立派なパワハラです。
(2)精神的な攻撃(脅迫、名誉棄損、侮辱)
脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など精神的な攻撃を加えるパワハラ。
「ばかやろう」「新人以下だな」「給料泥棒が」ここらの発言が精神的な攻撃に該当するパワハラです。
(3)人間関係からの切り離し(隔離、仲間外し、無視)
隔離や仲間外れ、無視など個人を疎外するパワハラ。
集団で無視をしてみたり、意味もなく物理的に別室に追いやるのもパワハラになります。
(4)過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能な業務を押し付けるパワハラ。
管理職になって1週間しか経っていないのに、ベテラン管理職よりも高い目標を押し付けられ結果を求めるのもパワハラにあたります。
(5)過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えないパワハラ。
その営業所で、10年間の営業経験(実績)があるにも関わらず、コピー取りや書類のファイリングしかやらせないのもパワハラということです。
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入る)
私的なことに過度に立ち入るパワハラ。
「彼女(彼氏)いるの?」「なんで結婚しないの?」は典型的なパワハラ発言です。
【事例】ひどいパワハラのグレーゾーン:4つの言動例
4つの言動例を通して、グレーゾーンを理解しましょう。
前述の通り、発言内容だけではパワハラかどうか判断できません。
厚生労働省の3つの定義や6類型に加えて、以下の3項目も重要な要素になります。
☑言動が具体的な行動につながるか?(パワハラか?指導か?)
☑状況による(言動の目的、相手との関係性など)
☑時間(一般に長時間だとパワハラに該当しやすい)
…と言われてもわかりにくいと思いますので、4つのケース(実体験)を見ていきましょう。
(1)脅迫型パワハラ「目標達成できないなら、退職届を書け」
指導ではなく脅迫されたパワハラでした。
私が超ブラック企業に勤めている時に上司から言われました。
上司は業務改善のために、具体的な指導もしてくれてはいましたが、この発言は今思うとパワハラ認定されるであろう案件でした。
上司の発言の意図としては、退職届を書かせることで退路を断て、覚悟を決めろというメッセージを込めていたようですが…
目標達成のための業務遂行能力がないのであれば、具体的な指導をして、改善できなければ叱責される。これならパワハラには当たらないと思われます。「退職届を書け」は余計です。
(2)侮辱型パワハラ「お前は知恵遅れ」
精神的に攻撃されたパワハラでした。
私が超ブラック企業に勤めている時に、上司が言っていることの意図が読み取れなかったことに対して言われました。
発言を分けて考えると「お前」と「知恵遅れ」になります。
どちらも上司から部下への発言として適切ではありません。
「知恵遅れ」はそもそも差別発言ですし、言われたからといって上司の発言の意図が読み取れるようにはなりません。つまり具体的な指導ではないのです。ただ侮辱している。
一方、「お前」は適切ではないし、キツい言葉のように感じますが、「お前」という言葉だけでは決してパワハラとは言えないと考えられます。
(3)名誉棄損型パワハラ「新人以下ですね」
大企業で労働組合をしている時に関わった案件です。
管理職Aさんが部下の中堅社員Bさんに発した言葉です。
Aさんはいつも丁寧な口調で部下に接します。
しかし業績のよくない部下に対しては、わざとミーティング中や他のメンバーがいる時に淡々と叱責をすることが多いです。
どんなに丁寧に、やさしく発言しようが「新人以下」はパワハラに当たる可能性はきわめて高いです。
なぜなら指導ではないからです。
「新人以下」と言われても業績は上がりません。
業績を上げるための指導であれば、「〇〇のスキルを上げるため、△△をやりましょう。進捗状況を定時報告ください。」など、伝え方は他にあるはずです。
「新人以下」と言われても、受け手は不快な思いしかなく、何も生み出せません。
(4)私的なことに過度に立ち入る「彼女もいないから、仕事もできないんだ」
大企業で労働組合をしている時に関わった案件です。
先輩社員Cさんが後輩社員Dさんに発した言葉です。
10名以上参加者がいる飲み会の席で、Cさんは冗談のつもりで発言したようですが、Dさんは会社に訴えました。
パワハラは必ずしも上司から部下へ、とは限りません。
訴えられた結果、会社の調査が入り、Cさんは降格になりました。
上記の4事例は実体験ではありますが、すべてが裁判にかけられたわけありません。ですので、実際にパワハラ認定されるか、されないかの検証をした内容ではありません。
あくまで考え方のご参考にしていただければ幸いです。
パワハラのグレーゾーン問題への3つの対策
パワハラのグレーゾーン問題への対策は「指導とパワハラの切り分け」「言動だけでなく状況の理解」「証拠をおさえる」この3つを抑えることがポイントです。
厚生労働省の定義や6類型、事例を踏まえた上で、どう向き合うか?を考えていきましょう。
(1)具体的な改善指導をする(余計なパワハラ発言は不要)
「パワハラ」と「指導」を分けて考える必要があります。
人格否定など業務とは関係ない言動はご法度です。感情に任せて怒りをぶつけるのは論外です。
言動は受け手が業務改善できるものでなければなりません。
(2)パワハラに関わる7つの状況を理解する
何度も申し上げている通り、パワハラか否かは言動だけでなく、様々な状況が関係します。
その様々な状況を具体化するため7つに分類しました。
☑言動の目的:なぜその言動をしたのか?
☑言動を受けた労働者の問題行動の有無などの経緯:初めてのミス?何度もミスを繰り返している?
☑業種業態:安全の観点から口調があらくなることは考慮されます。
☑業務内容:医療現場など命に係わる業務は一般の業務よりも強い叱責されることは考慮されます。
☑頻度や継続性:一般に一回きり、5分程度であればいい。2時間拘束する必要ないですよね。
☑労働者の属性心身状況:心身が弱っている相手を責めるのはハラスメントになりやすいです。
☑労働者との関係性:日頃からのコミュニケーションは?
(3)グレーゾーンについてはお互い証拠をおさえる
お互いとは上司も部下(他の関係性もありえる)も、です。
それだけではなく、いざ会社からの調査や訴訟になった時にも“事実”を証明することでき、あなたを守ってくれます。2種類の証拠がありますので、確認しておきましょう。
①信用性が高い証拠
以下の証拠は、客観的な証明をしてくれます。
☑録音:暴言などだけでなく、殴られた音も含めて
☑録画:防犯カメラや動画でパワハラ言動を録画
☑メールやSNSのやり取り:どのタイミングで誰が誰に何を言ったのか
②信用に検討が必要な証拠
以下の証拠は、証拠としては弱いですが、取得できるならしておきましょう。
☑医師の診断書:うつ病にの診断結果など。ただし、パワハラに起因するかは検証が必要。
☑日記、メモ:無駄ではありませんが、客観的証明としては弱い。
☑関係者ヒアリング:意味がなくはないですが、人は忘れっぽく、嘘をつくため証拠としては弱い。
パワハラに関わるその他よくある質問
パワハラに関わるよくある質問も見ていきましょう。
(1)パワハラする人ってどんな人?
自分の部下を道具と思っている自己中な人が多いです。
この人たちはパワハラしていることを自覚しています。救いがたい人たちですね。
一方で、無自覚にパワハラをしてしまっている人もいます。
この人たちは主に部下育成に一生懸命でパワハラの認識はないですが、受け手からすると困った人です。
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(2)パワハラを受けたらどこに相談?
厚生労働省「ハラスメント悩み相談室」があります。
メールやSNS、電話でのハラスメント全般(パワハラ以外も)の相談できます。
公的機関ですので無料です。
(3)パワハラに当たらない事例は?
☑故意ではなく、相手にぶつかってしまう(身体的攻撃にあたらない)。
☑何度も同じミスをして、注意しても直らないため、厳しく指導した(精神的攻撃にあたらない)。
ただし、前述した通り、「パワハラ」と「指導」は別ですので、ミスを繰り返すから「バカ」「新人以下」などの言動はパワハラになります。
(4)退職時にしつこく引き止められるのもパワハラですか?
過度な引き止めはパワハラは当たります。
退職の意思表示は会社ではなく、あなたの意思で決めることができます。
正社員であれば、民法で退職の2週間前に退職の意思表示をすれば辞められます。
仮に就業規則で「1ヶ月前に退職意思報告すること」となっていても民法が優先します。
(5)パワハラで訴えられたらどうしたらいいですか?
パワハラの訴えにビビる必要はありません。
訴訟に備えて「パワハラではなく指導であること」を軸に、時系列に事実をまとめておき、理論武装しておきましょう。
パワハラで訴えられた時の相談先もあります。
自分はパワハラのグレーゾーンを理解していないと自覚する
「自分は世間一般の感覚がない。主観でパワハラと決めているかも。」と思っているぐらいでちょうど良いです。
「無知の知」というやつですね。
「自分は知らないんだ」ということを知ることがスタートです。
グレーゾーンが少しは白黒はっきりしましたでしょうか?
パワハラは加害者側も被害者側にとってもよくないです。
働くのが楽しくなくなるし、ビビったり遠慮することで、労働生産性が大きく下がります。
パワハラを正しく認識して、健全に仕事がしたいですね。
・パワハラのグレーゾーンは主観から生まれる
・厚生労働省の考え ≒ 裁判所の判断 ≒ “世間一般の感覚”
・厚生労働省のパワハラの定義と6類型を知る
・パワハラは様々な状況によるもので、言動のみでは判断できない
・自分は“世間一般の感覚”を知らないと知る